【感想】『スリー・ビルボード』それは道々決めればいい

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『スリー・ビルボード』

・日本公開:201821

・制作国:アメリカ

・監督、脚本、製作:マーティン・マクドナー

・出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、

    サム・ロックウェル、ルーカス・ヘッジス、
    ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

・撮影:ベン・デイヴィス

・音楽:カーター・パーウェル

・編集:ジョン・グレゴリー

・制作会社:フィルム4・プロダクションズ

・配給会社:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ(アメリカ)

      20世紀フォックス映画(日本)



<ストーリー>

 ミズーリ州の片田舎、7ヶ月前に何者かにより娘を殺害された母親のミルドレッドは、さびれた通りに、ある3枚の広告看板を出し、その看板が保守的な町の人々の間で物議を醸すこととなる。看板には一向に事件の捜査を進めない警察への怒りが込められていた。ミルドレッドはこの看板をよく思わず妨害しようとする警察と町の人々に、事件の真相を究明するべくたった一人で挑んでいく。


予告 
 ↓



100点


はじめに

  結論から言うと、この映画物凄く面白いです。10年に本の傑作じゃないでしょうか。

まず脚本が素晴らしい。二転三転するストーリーもさることながら、決して1面では語れない人間の多面性を描き、時に残酷な描写もありながら、同時に絶妙な間の笑いもある。そして、ミズーリ州のエビングという片田舎を描きながら、全世界に通じる問題提議があるところが驚異的に凄い。とても周到なよく出来た脚本でした。

 それでは本作の魅力について語って行きます!



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<見どころ>


ミズーリ州エビング

 この映画の舞台になるのはミズーリ州のエビングという架空の町。ミズーリといえば山岳地帯の山ばっかりで何もないところで、非常に閉鎖的な状況設定がなされます。ロケハンには時間をかけたそうで、端から端まで歩けるメインストリートや、町役場への階段があり向かいには警察があるような、ロングショットや長回しで1つの画面に収まるような場所が欲しかったそうです。
これは監督のマーティン・マクドナーがもともと劇作家だったということが影響しているんだと思います。演劇の舞台のような箱庭的世界観を表現したかったのではないでしょうか。限定的で閉鎖的な空間の方が人間の多面性を描くのに適しているんだと思います。


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 撮影のベン・デイヴィスはスティーブン・ショアの写真を参考にして画作りをしていったそうですが、個人的にはエドワード・ホッパーの絵を想起しました。

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3つの広告看板 「レイプされて死亡」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ?ウィロビー署長」

 この映画は監督のある出来事から着想を得て創られた映画です。というのは20年ほど前、監督がバスでアメリカ南部の州を移動していると窓の外の野原に強烈なメッセージが書かれた2枚の広告看板が見えたそうです。その看板から感じた怒りや痛みが忘れられず、そこから話を拡げこの話を書きあげたそうです。


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 監督は強く怒りに燃える女性(母親)の話を書きたかったそうで、はじめからフランシス・マクドーマンドを想定し話を書き始めましたが、2014年頃に脚本を受け取った彼女は、当時57歳。約60歳で19歳の娘がいるという設定はおかしいと思った彼女は、祖母の役にしてほしいと監督に頼んだそうですが、監督は絶対に母親でなくてはだめだと許可しなかったとのこと。結局夫のジョエル・コーエンがフランシス・マクドーマンドを説得し母親役にきまったそうです。

確かにこの映画は母の怒りじゃなきゃ成り立たない話ですね。あとフランシス・マクドーマンド以外はやっぱりこの役で考えられないです。ジュリアン・ムーアがやっていたら強さが足りないし、ケイト・ウィンスレットがやっていたらウィットさが足りない気がします。やっぱりフランシス・マクドーマンドじゃないと!


 
ちなみにミルドレッドはある種の戦闘服のようにブルーのジャンプスーツを着続けますが、これはフランシス・マクドーマンドのアイデアだそうです。あとバンダナも特徴的で彼女が行動を起こす時のサインにもなっています。このミルドレッドを演じるにあたって彼女はジョン・ウェインの姿勢を参考にしてこの役を演じたそうです。


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アメリカの闇

 本作の優れているところはそこかしこに問題提起が含まれているということです。まず、黒人に差別的な白人警官が描かれますが、舞台がミズーリ州ということでファーガソン事件を連想させます。この事件は、ある白人警官が無抵抗の黒人青年を射殺したのにも関わらず裁判で無罪になったという2014年に起きた事件です。


またミルドレッドをたしなめに来た神父にミルドレッドが幼児に対する性的虐待問題を揶揄するシーンがありますが、これは『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年公開)という映画にもなった、『ボストン・グローブ』紙のカトリック司祭による性的虐待事件の報道を連想させます。


そしてディクソンがアンジェラ殺しの犯人と勘違いした元軍人の男が「9か月前に女性をレイプして焼き殺した」とバーで話をするシーンがありますが、これはイラクでアメリカ陸軍兵士がイラクの少女を強姦し虐殺したという実際に起きたマフムーディーヤ虐殺事件を連想させます。


まだまだ様々な問題提起がこの映画にはありますが、この小さなミズーリのエビングという町はアメリカ全体の闇を映し出した、アメリカの縮図のような町です。箱庭的世界観がここでも活きています。



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役者達の演技

 各人ベストアクトと言って良いほどの名演技でした。 

 フランシス・マクドーマンドの骨太な佇まいは西部劇を思わせ、威厳や信念を感じさせながら、同時に些細な表情や仕草で知性や優しさを表現しており、「ファーゴ」(1996年公開)以来、2度目のアカデミー主演女優賞受賞も頷ける最高の演技でした。個人的には受賞数でダニエル・デイ=ルイス越えも可能なのではないかと思っています。

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 ウディ・ハレルソンは悪役面でありながら、映画によって印象をガラリと変えるカメレオン役者。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年公開)や「ラリー・フリント」(1996年公開)など狂気を感じさせる役柄が多かった彼ですが、本作では誰からも慕われる警察署長役を見事に演じております。近作の「スティート17モンスター」(2016年公開)でもそうですが温かみのある役が合うようになってきましたね。

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 そして何より、サム・ロックウェルが素晴らしい!!滑稽なキャラクターでありながら無軌道な暴力性を孕み、同時に良心的でどこか憎めないチャーミングさも出せるなんて、こんな役は彼にしかできないと思いました。フランシス・マクドーマンドがいれば『ファーゴ』のスティーブ・ブシェミを連想してしまいますが、仮にブシェミがこの役を演じたとしたら、あまりにも滑稽過ぎて凶暴さが皆無になってしまいます。監督のマーティン・マクドナーとサム・ロックウェルは「セブンサイコパス」(2012年公開)以来2度目のタッグですが、マーティン・マクドナーは本作も前作同様、彼に当てて書いた役だそうです。


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本作は名優達の演技アンサンブルも見所のひとつです。



人間の多面性

 ミルドレッドは最もたくましいキャラで、火炎瓶を投げ、股間を蹴り上げるという暴力的な面がありながら、基本的には人に対して親切で優しい面がある。一方、ミルドレッドと対立するディクソンは差別的で暴力的なダメ警官ですが、母親思いでウィロビー署長を敬愛し、曲がりなりにも一応自分の正義を持つ男。それぞれ矛盾した性格を抱えている2人ですが案外似たもの同士なのかもしれません。


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そして最初っから最後まで誰に対しても親切で変わらなかったのはケイレブ・ランドリー・ジョーンズ演じるレッド。

病室でディクソンにオレンジジュースのストローの向きを変えてあげるというシーンがありますが、このストローのシーンの意味はディクソンに赦しを与え、間違った方向を正してあげるという2つの意味があるのではないでしょうか。このシーンは本当に感動的でした。

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ミルドレッドの娘にしてしまったことに対する贖罪と、ディクソンのダメだった自分自身に対する贖罪はどこに向かうのかわかりませんが、それは道々、決めていけばいいんですよね。

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<まとめ>

 この映画がやっぱり偉いと思うのは暴力的なシーンの後にも常に笑いがあるところだと思います。娘がレイプされて焼き殺されたという話なら、もっと深刻なトーンになってもいいはずなのにこの映画はそんなに重くならないんですよね。

これは監督のこだわりみたいで、最後にインタビューで言っていたことを載せて終わりたいと思います。


「世の中に対して怒りや闇を感じながらも、それを克服し、決して屈しない。そして苦難の中にもユーモアを見つけ、笑の種にすることが何よりも大切だと思う。」

「僕のユーモアは、闇の近くを徘徊している類のもの。」

     キネマ旬報 2月上旬号より





ここまで読んでいただきありがとうございました!



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