『アリー/スター誕生』のあらすじと感想

アリー


『アリー
/スター誕生』

・日本公開:20181221

・制作国:アメリカ

・監督/脚本/製作:ブラッドリー・クーパー

・出演:ブラッドリー・クーパー、レディー・ガガ、サム・エリオット

・撮影:マシュー・リバティーク

・編集:ジェイ・キャシディ

・製作:トッド・フィリップス

・制作会社:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー

・配給会社:ワーナー・ブラザーズ



<ストーリー>

 国民的人気を誇るロックミュージシャン、ジャクソン・メインは、コンサート終了後に立ち寄ったドラァグ・バーのステージでアリーの歌を聴く。アリーはデビューを夢見てホテルのウェイトレスをしながらドラァグ・バーで歌うシンガーだった。そんなアリーの歌声に心を揺さぶられたジャクソンはステージ終了後、アリーを誘い二人は夜の街に繰り出す。互いに惹かれ合う二人。スーパーのパーキングで自作の曲を歌ってみせるアリーにジャクソンは一層魅かれるのだった。ジャクソンは翌日のコンサートにアリーを招待する。舞台の袖でライブを鑑賞するアリーをジャクソンはステージに誘い、アリーが前日に歌って聞かせた「shallow」をデュエットし二人は喝采を浴びる。とうとう結ばれた二人。アリーは翌日からツアーに参加、公演を重ねるごとにアリーへの注目が増し、アリーは念願だったデビューを果たす。そこから一気にスターダムを駆け上がるアリー。一方ジャクソンはアルコール中毒が悪化し、精神不安定な状態に陥る。上昇するアリーと下降していくジャクソンの間に徐々に軋轢が生まれていくのだった…

  ブラッドリー・クーパー初監督作にしてレディー・ガガ初主演映画。


予告
 ↓

85点

<はじめに>

 本作は2019年度アカデミー作品賞、有力候補作品でもあり、「グレイテスト・ショーマン」や「ボヘミアン・ラプソディ」などの音楽映画がヒットした2018年の最後の最注目作品ということで、期待大の状態で鑑賞。観てみると迫力のライブや恋に落ちる二人を瑞々しく捉えた、とても見ごたえのある作品でした。個人的にはブラッドリー・クーパーの監督としての手腕に注目していましたが、申し分のない出来だったと思います。何よりも本作が映画初主演作品というレディー・ガガの迫真の演技に驚かされました。

 それでは本作の魅力を語っていきます。


スクリーンショット 2019-01-13 15.53.20

<見どころ>

ブラッドリー・クーパー監督デビュー


 本作で監督、脚本、制作、主演と全てをこなすブラッドリー・クーパーは芸歴20年、「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年公開)で34歳にしてブレイクした遅先の苦労人。デヴィッド・O・ラッセル監督の「世界にひとつのプレイブック」(2012年公開)やクリント・イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」(2014年公開)に出演し、両作品ともに高い演技力を評価されアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、演技派としての評判を高めていきました。また同時にそれらの作品の製作も兼任し、2015年には「ハングオーバー・シリーズ」の監督であり、友人でもあるトッド・フィリップスとジョイント・エフォートという製作会社を立ち上げ映画製作に深く関わっていきます。本作はもともと、2011年にビヨンセ主演、クリント・イーストウッド監督で進められていたこの企画ですが、ビヨンセの妊娠で一旦企画が流れ、またキャストが何度も変更になるなど紆余曲折を経て、クリント・イーストウッドの推薦もありブラッドリー・クーパーが本作を監督するに至りました。

 この映画を引き受けた時のブラッドリー・クーパーの年齢は41歳。俳優としても国民的人気のあるクリント・イーストウッドが「恐怖のメロディ」(1971年公開)で監督デビューしたのもイーストウッドが41歳の時ですから、40代は監督をするのに絶好のタイミングでしょう。機は熟したという感じ。ちなみにロバート・レッドフォードの監督デビューは44歳の時で、メル・ギブソンは37歳。往々にしてアラフォーで人生の転換が訪れるみたいですね。



スクリーンショット 2019-01-13 15.52.36

ブラッドリー・クーパーの演奏と歌声

 
 本作で出演もし実際に歌も唄っているブラッドリーですが、国民的人気のロックミュージシャンを見事に体現しており、色気のある渋い歌声を披露していました。6ヶ月間、週に5日間を歌のレッスンに費やし、歌い方はパール・ジャムのエディ・ヴェダーやトム・ペティ、ニール・ヤングにブルース・スプリングスティーンを意識し、あの歌声を手に入れたそうです。またギターとピアノのレッスンも受け、実際に彼が楽器の演奏もしています。恐るべき役者魂。役者の集中力は本当に凄いと思います。「JIMI:栄光への軌跡」(2015年公開)で左利きの天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスを演じたアンドレ・ベンジャミンは1日8時間、トータルで約600時間に及ぶ猛特訓でギターの超絶技巧を習得し、「セッション」(2014年公開)でジャズドラマーを演じたマイルズ・テラーは週に3回4時間のレッスンをして伝説のドラマー、バディ・リッチ顔負けの奏法を習得しています。本当向こうの役者さんたちは実際に演奏してしまうのが凄いですね。でも僕が一番驚愕したのは「ブラックパンサー」(2018年公開)でおなじみチャドウィック・ボーズマンが「ジャームス・ブラウン~最高の魂を持つ男」(2014年公開)で演じたジェームス・ブラウンですね。実際に歌と踊りとステージをこなしているんですが、ここまで本人を再現できるのかと衝撃を受けました。

 話が逸れましたが、そんな熱い役者魂をみせるブラッドリー・クーパーの歌声は、レディー・ガガにも「本物」と認められたそうです。レディー・ガガの出演が決まる前にブラッドリーはレディー・ガガの家に行き、歌声を披露したとのことですが、この歌声や努力なくしてレディー・ガガの出演は決まらなかったのではないでしょうか。ちなみに今後ブラッドリー・クーパーは演奏活動はせず、映画に専念するとのことです。内心ラッセル・クロウやヒュー・ジャックマンみたい歌手活動を並行して行っていくようになるのかと思っていました。


スクリーンショット 2019-01-13 15.55.00


迫力のライブシーン

 
 ブラッドリー・クーパーが本作をやりたいと思ったきっかけは、7年前にドラムの後ろで見させてもらったメタリカのコンサートだったそうです。とても感動したブラッドリー・クーパーはライブの迫力や臨場感をみんなにも見せたいと思い、本作の監督と主演を決意しました。なので本作は様々な工夫でライブシーンが物凄くよく撮られています。

 まずライブシーンは全てミュージシャンからの視点で撮影されており、観客側の視点によるコンサートのワイドショットはひとつもありません。ミュージシャンからの視点なので、ミュージシャン同士のリアルなジャムセッション感や観客が徐々に高揚していく感じがうまくこちらに伝わってきます。このあたりはザ・バンドのラストライブを撮影した「ラスト・ワルツ」(1978年公開)を彷彿しました。

 視点もさることながら、なぜライブシーンでここまでの臨場感やパワーが出せているかというと、それはやっぱり実際のライブで観客を前に演奏したからだと思います。オープニングのライブシーンはコーチェラ音楽祭というカリフォルニア州インディオの砂漠地帯で行われた実際の音楽フェスで撮影されており、ウィリー・ネルソンの出番の前に本物の客の前で実際に演奏しています。そしてこのライブのメインパフォーマーがなんとレディー・ガガだったため、舞台の装置、照明機材や既存のステージをそのまま利用することができたそうです。なのでほとんど準備する必要もなくさっと行ってさっと撮れたとのこと。レディー・ガガさまさまですね。

スクリーンショット 2019-01-13 15.52.22

 
ちなみにウィリー・ネルソンといえば、本作で息子のルーカス・ネルソンが劇中でギタリスト役で出演しており、ブラッドリー・クーパーやレディー・ガガと劇中歌の製作に携わっています。ウィリー・ネルソンはこのライブシーンの撮影のために出演時間の8分間を譲ってくれたとのこと。使えるコネは全部使って撮影した感じですね。人脈って本当大事。

 グランストンベリー・フェスティバルでも撮影をしており、ここではクリス・クリストファーソンの出番の4分間をもらって8万人の観客の前で演奏しております。クリス・クリストファーソンといえば1976年版の「スター誕生」の主演ですが、ここでもコネの力発動か。

 とにもかくにも本作のライブシーンは絶品です。


スクリーンショット 2019-01-13 15.51.09

レディー・ガガ圧巻の演技

 
 本作の勝因はなんといってもレディー・ガガを起用したことに尽きます。当代きってのスーパースターであり、圧倒的な実力と才能、そして人気を兼ね揃えた彼女以外のキャスティングが思い浮かびません。ビヨンセがやっていたとしたらもうすでに「ドリームガールズ」(2006年公開)でスターになっているので焼き直し感がすごくあるし、言っちゃなんですがベテラン感が物凄くあって今更スター誕生って言われてもリアリティがありません。またイーストウッドは今一番優れた音楽家であり超絶技巧のベーシストで歌声も絶品、さらに容姿端麗のエスペランサ・スポルディングを構想していたようですが、個人的にエンターテイメント界のスターっていうイメージが全然湧かないんですよね。やっぱり容姿よりも圧倒的な音楽的才能が先に出て来ちゃうんです。(ちなみに彼女は20歳にして名門バークリー音楽院の史上最年少講師になるほどの才能の持ち主。圧倒的な演奏技術と作曲の能力がありますが、いろいろなジャンルをクロスオーバーできる柔らかい感性が最大の魅力。個人的にはソウルミュージックにアプローチした「ラジオ・ミュージック・ソサエティ」(2012年)が一番好きなアルバムで、21世紀で最も重要なアルバムのひとつと言って過言ではないと思います。)才色兼備ということなら「スモーキン・エース」(2007年公開)や「私がクマにキレた理由」(2007年公開)などの映画に出演していた頃の10年前のアリシア・キースなら成り立ったと思うんですが、タイミングが悪かったですね。

 諸々考えてやっぱりタイミング的にレディー・ガガがベストだと思います。

ブラッドリー・クーパーがレディー・ガガのパフォーマンスを初めて見たのは、あるチャリティーイベントでのこと。その時にレディー・ガガはエディット・ピアフの「ラ・ヴィ・アン・ローズ」を歌っていたそうです。(ちなみにこの曲は本作のアリーとジャクソンが出会うドラァグ・バーでのシーンでレディー・ガガが歌っています。)歌を聴いてブラッドリー・クーパーは大変感動したそうですが、何よりガガの瞳の美しさに見惚れてしまったとのこと。そんなガガの素の美しさを引き出すため、本作でガガはなんとほぼノーメイクに近い状態で撮影されております。

スクリーンショット 2019-01-13 15.54.36


 
 そんなレディー・ガガの演技はどうだったかというと、これがとても良い。アリーの芯がありながら奥手でどこか脆さを感じさせる感じの演技や、デビューしてからのたくましさや、ある事件が起こってからの心の揺らぎなどがうまく表現されており、とても見ごたえのある演技でした。本作でアリーはドラァグ・バーで歌っていますが、実際にレディー・ガガも下積み時代に同じような場所で歌っていたとのこと。また本作でアリーがイタリア系特有の自分の鼻の高さをしきりに気にしており、レコード会社から鼻の整形をすすめられたと話すシーンがありますが、これは実話でレディー・ガガが実際に言われた事みたいです。実体験を反映していることも演技に深みを与えた要因でしょう。
 そして本作ではスターが誕生する瞬間を文字通り、映像で見せる必要があるわけですが、それを可能にさせているのが、レディー・ガガの圧巻の歌唱力。近年ベテランのジャズシンガー、トニー・ベネットと「Cheek to Cheek」(2014年)というジャズのアルバムを出していますが、この作品の中で彼女の歌声は伝説の女性ジャズシンガー、エラ・フィッツジェラルドに匹敵する古典性を持ったものでした。そんな歌声を持ってスターになれなわけがない。そんな必然性が本作でも感じられるんですよね。これはスターになって当たり前、このあたりは誰も疑う余地がないでしょう。

スクリーンショット 2019-01-13 16.08.38


 映画は初出演のレディー・ガガですが、女優としては「アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル」と「アメリカン・ホラー・ストーリー:対談」などのテレビドラマに出演しており、なんとゴールデングローブ賞のTV映画部門女優賞を受賞しているとのこと。どれだけ才能があるんでしょう。今後の役者としてのレディー・ガガにも期待大です。



楽曲のクオリティの高さ

 
 「スター誕生」というこの企画の成功の要因のひとつは、なんといっても楽曲の素晴らしさ。「shallow」や「I’ll Never Love Again」などの粒揃いの名曲たちが、ストーリーに絶対的な説得力を持たせます。楽曲はレディー・ガガとブラッドリー・クーパーとルーカス・ネルソンが中心になり仕上げましたが、キャラクターの心情を代弁するような歌詞と曲調は見事です。またアリーの部屋にキャロル・キングの「つづれおり」(1971年)のレコードが飾ってありますが、シンガーソングライターのような曲調の曲もあれば、ニール・ヤングのようなブルースロック調の曲、さらには今風のエレクトロ・ポップ調の曲もあったりと多彩な音楽性があって非常に楽しめます。このあたりは音楽業界を知り尽くしたレディー・ガガの伝手で曲に合わせて、マーク・ロンソンなどぴったりなアーティストを呼んでこれた事が大きかったそうです。また本作は今の音楽シーンの舞台裏がリアルに描かれていますが、ここもレディー・ガガ起用の恩恵でしょう。


スクリーンショット 2019-01-13 16.08.02


恋愛映画
 
 またこの映画は非常に恋愛映画としても優れています。二人のときめく顔や瞳の輝き、また触れ合う手と手や鼻を触る指などが極端なクローズアップで撮られ、二人が惹かれあい、やがて愛し合うまでの心理描写が丁寧に描かれていました。それはまるで世界に二人しか存在していないかのような、また二人が出会ったのは必然であったかのように見えました。
ブラッドリー・クーパーは恋愛映画が撮りたかったようですが、見事な出来栄えではないでしょうか。

スクリーンショット 2019-01-13 15.51.27

音楽によって心を通わせ、やがて恋に落ちる過程を描く映画という意味ではジョン・カーニー作品の「ONCE ダブリンの街角」(2001年公開)を想起しました。

 あと劇中でジャクソンはアル中で終始酔っ払っているんですが、アル中のミュージシャンが出てくる映画といえば名優ジェフ・ブリッジスの「クレイジー・ハート」(2009年公開)を想起しました。これは僕の持論なんですが、酔っ払い演技が上手い役者は皆名優です。

スクリーンショット 2019-01-13 15.51.44

<まとめ>
 本作の勝因は「迫力のライブシーン」「恋愛描写」「楽曲の良さ」の3つ尽きると思いますが、その全てでレディー・ガガが非常に貢献しているんですよね。本当にレディー・ガガが主演で正解でした。またブラッドリー・クーパーの監督としての手腕も見事で、伏線回収や演出もきっちりこなしていました。特に最後の「I’ll Never Love Again」を歌うシーンであるカットに切り替わるんですが、ここは映画史に残る名編集と言って過言ではないでしょう。ここの涙腺決壊具合は半端なく、おそらくこのシーンで流された涙を集めたらダムひとつ分、水が溜まってしまうでしょう。

 
とにもかくにも絶対に映画館で必見の本作、アカデミー賞発表前に見ておくことをオススメします!

スクリーンショット 2019-01-13 15.50.52


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回も宜しくお願いします!


※画像はIMDbから引用



見逃し配信バナー
SoftBank Air

よければTwitterフォローもよろしくお願いします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です