【感想】『リチャード・ジュエル』現代の不条理

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・日本公開:2020117

・制作国:アメリカ

・監督:クリント・イーストウッド

・脚本:ビリー・レイ

・配給会社:ワーナー・ブラザース

・出演:ポール・ウォルター・ハウザー

    サム・ロックウェル

    キャシー・ベイツ

    

 僕が見たのは朝9時半からの回だったのですが、満席に近い状態で客層は年配の方が多い印象で、やはりイーストウッドの長年のファンが集っているという感じでしたね。ここに来て最盛期であるイーストウッドの作品を見逃す訳にはいきませんよね。

まず、「アイトーニャ」でお馴染みのポール・ウォルター・ハウザーが主というのに驚きました。いつもおバカキャラを演じる事が多く、正直お世辞にもハンサムとは呼べないので、彼が主役で客が呼べのかこっちが不安になりましたが、考えてみればイーストウッド映画には実際の人物達に演じさせて撮った「1517分、パリ行き」なんていう実話を基にした話もある訳ですから、イーストウッドの手にかかればノープロブレム。やはりイーストウッドの実力と実績があるからできたキャスティングでもありますね。あと、このポールさんが実際のリチャード・ジュエルに非常によく似ており、母親のボビ・ジュエルさんも余りに似ているので大変驚いたとか。本編を見ると確かな演技でちゃんと主役にも見えますし、本作の主役はポール・ウォルター・ハウザーが適任だったといえるでしょう。

本作で描かれるリチャード・ジュエルはどんな人物かというと、年齢は30歳過ぎで、見た目は中肉中背、恋人はおらず母親と二人暮らし。性格は穏和ですが、正義感の強い所があります。常に人の役に立ちたいと考えているので、主に警備員の仕事をしますが、定職には就いていません。将来的に警察などの法執行官になりたいという夢を持っていますが、持ち前の強すぎる正義感が仇となり、職場で変な人にみられることもあるんですね。

学生寮の警備員をしていた際も、規則や規律を遵守し生徒達を厳しく罰するあまり、生徒達や親達からクレームを受け、教員側からも異常者と思われ仕事をクビになったりします。リチャードは真面目すぎるというか、警備員をしている自分も法執行官だと思い込んでいるぐらい、非常に意識が高いんですよね。世間の感覚とちょっとズレた感じがあります。

そんなリチャードが次に選んだ仕事は、1996年アトランタ五輪期間中にセンテニアル・オリンピック公園で行われたコンサートの警備員。ライブを楽しみながら仕事ができるし、母親にケニー・ロジャースのショーを見せることができると、喜々として働くリチャードですが、3日目の夜、ベンチの付近にリュックの忘れ物を発見します。初めはみんな、どうせビールが入っているんだよと真剣に取り合ってくれませんでしたが、リチャードがいつもの正義感を発揮したお陰で、早期に爆弾の発見ができ、最小被害に収めることができます。

彼は一夜にして、爆弾から人々を救った英雄としてメディアから祭り上げられます。今まで貫いて来た信念がようやく身を結び、母親も多いに喜びます。このあたりは同じルサンチマンを抱えるものとして、とても胸が熱くなりました。


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ですが事態は一気に急変します。FBIのプロファイリングにより自作自演の嫌疑がかけられ、またその情報が新聞社にリークされてしまったことで、メディアでも放送されてしまい、一夜にして彼の名誉は英雄から、容疑者へ失墜してしまいます。

リチャードが犯人だという証拠や根拠は何もありませんでしたが、30過ぎで母親と二人暮らしのおじさんが、世間からの注目を得るために、自分で爆弾をしかけたとプロファイリングされたわけです。過去に似た事例はあったにせよ、偏見だけで嫌疑をかけるなんてどうかしてますよね。

またそんなリチャードに追い打ちをかけるように、メディアの集中報道。メディアはネタになる美味しい事件だとリチャードの家に張り付き、FBIは早期解決がしたいのでリチャードに罪を押し付けようとします。

FBIに身辺調査や尾行、盗聴、家宅捜査などをされ、メディアからはリンチにあい、リチャードと母親の生活はめちゃくちゃになります。やがてリチャードは、彼がそれまで大切にしていた法執行官への憧れや国家への忠誠心、強い正義感というものが信じられなくなってしまいます。それらは彼にとって、彼とこの世界をつなぐ強い絆だったので、精神的にボロボロになるんですね。見ていて辛かったです。

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この話は、自分の信じた正義によって英雄になり、またそれにより容疑者にされてしまうという現代の不条理ですね。

本編は重たいだけの話かと思われますが、笑えるシーンも随所にあります。特にサム・ロックウェル扮するワトソン・ブライアント弁護士とリチャードの掛け合いは楽しく、またバディ化していくところも良かったですし、あとリチャードにとって不利になるような証言や物がどんどん出てきて、彼が追い込まれていく部分は、サスペンスフルでハラハラ魅入ってしまいました。

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あと、本作は近年のイーストウッド映画にしては131分と長尺の映画でしたが、非常にテンポがよくサクサク観れました。

事実としてこの事件後に、リチャード・ジュエルは各種メディアに対して訴訟を起こし和解金を受け取っていたり、あるいは真犯人のエリック・ルドルフが7年後に逮捕され、爆弾テロを仕掛けた理由が、「反中絶・反同性愛」だったということが明らかになりますが、これらを全部省き、話の焦点を絞ることで見やすさが増しています。このあたりはやはりイーストウッドの熟練の技ですね。

また本作を見ていてイーストウッドのエッセンスが随所に見られるようにも思いました。近作だと、

「過去に行った事や経験が今に繋がっている」という感覚は『15時17分、パリ行き」を想起させますし、「無実の者が疑われる」ということでいえば『ハドソン川の奇跡』ですし、あと「国家権力は信用できない」というところは『J・エドガー』を想起しました。

そして考えてみれば近年のイーストウッド作品のほとんどが実話がもとになっているんですよね。毎年1本のペースで映画を撮り続ける今年90歳になるクリント・イーストウッド御大ですが、現代アメリカというものを映画に焼き付け伝えていこうとする気概がただ事ではないですね。

ああ、今回もこんな傑作をありがとうクリント・イーストウッド。

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