【感想レビュー】『よこがお』あらすじ、見どころ紹介

 

目次

あらすじ

 訪問看護師の市子は、1年ほど前から大石家に看護で通い、親しくなったその家の長女・基子の介護福祉士の勉強を見てやっていた。基子は気の許せる唯一の存在として市子を慕い平穏な日々が続いていたが、ある日、基子の妹・サキが失踪する。

1週間後にサキは無事に保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは意外な人物だった。この誘拐事件への関与を疑われたことを契機に市子の日常は一変。これまで築きあげてきた生活が崩壊する。

市子は、こんな理不尽な状況へ自分を追い込んだ元凶である人物への復讐へ向かうが

予告

 

監督・キャスト

監督・脚本・編集 深田晃司
生年月日 1980年1月5日
出生地 東京都小金井市
大正大学文学部卒業。99年、映画美学校フィクションコースに入学。05年、平田オリザが主宰する劇団「青年団」に演出部として入団し、一方で自主映画も監督する。長編「東京人間喜劇」(09)を経て、10年の「歓待」で東京国際映画祭の日本映画「ある視点」部門作品賞。続く「ほとりの朔子」(13)では、仏ナント三大陸映画祭で最高賞の金の気球賞と若い審査員賞をダブル受賞。
長編5作目「淵に立つ」(16)がカンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞に輝き、気鋭の日本人監督として国際的に注目を集める。

画像出典:公式サイトから

音楽 :小野川浩幸
撮影 :根岸憲一

<キャスト>

筒井真理子 白川市子・リサ

<プロフィール>
生年月日 19601013
出生地 山梨県甲府市
1982年、早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」に入団し、数多くの公演に役者として参加。
1994年、山口巧監督「男ともだち」で映画初主演を務める。

<役柄>
終末期医療の現場で働く訪問看護師。

画家である大石塔子の家に介護で通い、大石家の長女と仲が良くなる。

性格は真面目で職場での人望も篤い。
訪問医師の戸塚健二とは婚約中。

画像出典:公式サイトから

 

市川実日子  

<プロフィール>

生年月日 1978613
出生地 東京都
10代からモデルとして活動し、1994年から雑誌「オリーブ」の専属モデルを務める。映画「タイムレスメロディ」(99)で女優デビューし、「シン・ゴジラ」(16)では第40回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を果たす。

<役柄>
大石家の長女。無職で家に引きこもっているが、
介護福祉士の勉強をしている。米田和道とは高校から恋人関係にある。
訪問介護で通う市子をとても慕っている。

画像出典:公式サイトから

<その他のキャスト>
池松壮亮:米田和道
吹越満:戸塚健二
須藤蓮:鈴木辰雄
小川未祐:大石サキ
大方斐紗子:大石塔子

見どころ

筒井真理子のよこがお

 本作の特色としてまず触れなければならないのは、この作品が深田監督の“筒井真理子を主演に映画を撮ってみたい”という願望から始まった企画だということです。

今の日本映画界で原作もなく、完全オリジナルのしかも個人的趣味の作品が作られる事自体が凄いというのと、また深田監督は筒井真理子の美しい横顔に多くの着想を得たとのことですが、そこからこんな現代の闇を切り取るような、しかも普遍性をもった作品を作り上げてしまうのだから深田監督の才能に驚かされます。

また本作で筒井真理子が深田監督のいわゆるミューズとなって作品ができたわけですが、
ゴダールがアンナ・カリーナを、ヒッチコックがグレース・ケリーをベルイマンがリブ・ウルマンをミューズにしてきたように、深田監督にも彼らのような芸術家の感覚があるように思います。

そしてやっぱり筒井真理子の演技力にも驚嘆するものがありますね。深田監督も脚本を書く段階で、彼女の演技力があればどんなものを書いても大丈夫だろうと、想像を自由に羽ばたかせる事ができたそうです。確かに彼女がどんどん崩壊していく様や、時制が変わる毎に印象や雰囲気が変わる様は、相当な演技力が必要とされます。また踊らされたり、真冬の湖に浸からされたり、変な歩き方をさせられたりと無茶振りのオンパレード感はありますが、それに見事に応える筒井真理子の演技はやはり圧巻でした。

筒井真理子は撮影中に役に入りすぎて記憶を失くしたり、また週刊誌を渡されるシーンでは共演の市川実日子いわく、週刊誌を渡された瞬間、実際に筒井真理子の体に鳥肌が立っていたとの事。

筒井真理子は憑依型の女優さんなんですね。
本作は彼女の演技と美しい横顔を見るだけでも一見の価値のある作品です。

参考記事:nippon.com

 

画像出典:映画.com

被害者と加害者の線引き

  本作では序盤に、ある以外な人物が誘拐犯として逮捕されますが、筒井真理子演じる市子は“加害者側”の人間としてマスメディアに追い回され、また彼女の過去の発言や行動が曲解され彼女自身も加害者であるかのようにイメージ操作されてしまいます。

そして本来なら“被害者側”のある人物による証言によって市子は完全に追い詰められ、彼女は職も無くし、パートナーも失い、家からも追い出され全てを失います。

(この加害者側が被害者になり被害者側が加害者になるという捻れた構造が怖い。)

深田監督はインタビューで

必ずしも「悪人が悪事を成す」わけではなくて、誰もがそういった立場になるかもしれないということ。被害者にしても加害者にしても、わかりやすく線を引けるものではないと思うんです。

参考記事:nippon.com

と語っていますが、この二次的に起きた悲劇はそういった、わかりやすく線を引こうとする世論によって起こされたと言ってもよいでしょう。
そして我々も日頃ニュースや報道に接する上で、この世論に加担してしまう可能性があると
自覚する必要があると思います。

このようなちょっとしたボタンの掛け違いによって、一瞬でこの社会から排除されてしまうという恐さと、ある種の被害者になってしまった市子に、救いの手を差し伸べる社会的システムはないという不条理。
そしてこれは誰にでも起こり得る事でもありますね。

本作はこうした社会の歪みを見事に切り取った社会派な作品です。

画像出典:公式Facebookから

感想・評価

僕が初めて深田監督作品を見たのはカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016年)でしたが、本作にも共通するテーマがあるように思いました。

それは「ある人物によって、崩壊してしまった日常とその後」というものだと思います。
どちらの物語もある人物によって日常が破壊されますが、被害を被った主人公には救いや解決などのほのめかしすらなく、すっきりしないままに物語は終わっていきます。
ただそこにあるのは“起きた事”と“それを体験した人物”がいるだけ。その二つの関わりが時間の経過と共にどう変化して行くのかが描かれています。

だからと言って決してつまらないわけではなく、誰にでも共感できるテーマを扱っているので、“見入らざる得ない”と言った印象があり、どちらの作品にも崩壊をもたらす“ある人物”を、あらゆるものに変換してみることができるという構造の豊かさがあると思います。僕は『淵に立つ』の浅野忠信を震災に置き換えて見ていました。

あと個人的にどちらの作品も”胸糞映画”(良い意味で)に入る傑作だと思います。
ちなみにこの”胸糞映画”の代表作といえば『聖なる鹿殺し』『ヘレディタリー』『ファニーゲーム』と言ったところです。『淵に立つ』においても全てを失う人物を筒井真理子が演じていますが、筒井真理子には『ファニーゲーム』に志願して主演したナオミ・ワッツばりのガッツと気概を感じますね。

深田監督作品と筒井真理子出演作には今後とも注目です。

画像出典:公式Facebookから

裏話・トリビア

  • 本作は深田監督の「筒井真理子さんとがっぷり四つで映画を作りたい」願望からスタートした企画。筒井真理子にオファーしてOKをもらってから脚本執筆を開始した。
  • 本作は筒井真理子の美しい横顔に着想を得て話が膨らんでいった。
  • タイトルの『よこがお』には片方は見えていて、片方は見えていないという、人の多面性を連想される意図がある。
  • 劇中、サキが辰男に会ったことを認識しない状況をつくるため、窓に西陽を差して、辰男の顔に影が落ちるという工夫をした。
  • 劇中、基子の表情に影を落として、何を考えているかわからなくする演出がされているが、これは小津安二郎の映画などの影響で深田監督が前からやりたかった演出。
  • 市子が犬を真似るシーンがあるが、これは人間としての社会性を剥奪され、動物のようになっているイメージで撮られている。
  • 当初、市子、基子、道子という3姉妹の運命が絡み合う群像劇を考えていたが、筒井真理子とガッツリやるなら群像劇にしないほうが良いと判断し却下された。
  • 押入れのシーンは筒井真理子の家族の実体験が基になっている
  • 本作の語り口はミラン・クンデラの『冗談』という小説の入れ子構造に影響を受けている
  • 一人の人物の転落を描いた作品という意味で本作は溝口健二監督の「西鶴一代女」(52年)やジョン・カサヴェテス監督の「こわれゆく女」(74年)に影響を受けている

参考記事:nippon.com
参考記事:カドブン
参考記事:キネマ旬報WEB

その他のレビュー

 

こんな人におすすめ

・この社会で生きる上でもっと見識を広げたい人

・凄い演技が見たい人

・社会派サスペンスが好きな人

背景・作品概要

  カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」の深田晃司監督が、同作でもタッグを組んだ筒井真理子を再び主演に迎え、不条理な現実に巻き込まれたひとりの善良な女性の絶望と希望を描いたサスペンス。

主人公・市子役を筒井が演じるほか、市川実日子、池松壮亮、吹越満らが脇を固める。

日本公開:2019726

<製作国>
日本・フランス合作

<制作会社>
角川大映スタジオ
COMME DES CINÉMAS

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