【感想レビュー】『凪待ち』あらすじ、見どころ紹介

画像出典:IMDb

目次

■あらすじ

 川崎で自堕落な毎日を送っていた木野本郁男は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓と彼女の娘・美波とともに亜弓の石巻の実家に移り住む。それは郁男にとって心機一転、再出発を図っての事でもあった。石巻で亜弓の父親と四人で生活を始めた郁男は、印刷工として働き、なにかと世話焼きの小野寺と飲みに出かけるなどして徐々に街に溶け込んでいく。

そんなある日、高校生の美波は亜弓と衝突して家を飛び出す。亜弓は夜になっても帰らない美波を心配しパニックに陥り、冷静さを失った彼女は郁男に当たってしまう。ふたり口論になった末、郁男は彼女を車から降ろす。だがその夜遅く、亜弓は遺体となって発見されるのだった…

予告

 

■監督・キャスト

監督 白石 和彌(しらいし かずや)
 生年月日 19741217
出生地 日本 北海道旭川市

<プロフィール>
札幌市の映像技術系専門学校後に上京。1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。 以後、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として行定勲、犬童一心監督などの様々な作品に参加。2009年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』が長編デビュー作。

ノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』(13)は、2013年度新藤兼人賞金賞をはじめ、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を総嘗めし、一躍脚光を浴びる。

2017年、『彼女がその名を知らない鳥たち』でブルーリボン賞監督賞に輝くと、2018年にも『孤狼の血』、『止められるか、俺たちを』、『サニー/32』で同賞を受賞。『止められるか、俺たちを』では2012年に亡くなった師匠の若松孝二が設立した若松プロダクションを題材に若松プロの映画に出演してきた俳優たちとともに青春群像劇を作り上げた。

<オススメの作品>

『凶悪』(2013年)
『日本で一番悪い奴ら』2016年)
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)
『孤狼の血』(2018年)『ひとよ』(一夜)(2019年)

画像出典:公式サイトから

脚本:加藤正人
音楽 :安川午朗
撮影 :福本淳
編集 :加藤ひとみ

<キャスト>

香取慎吾:木野本郁男(きのもといくお)

生年月日 1977131
出身地 神奈川県横浜市

<プロフィール>
1987年、ジャニーズ事務所に入所。
1988
4月、11歳でSMAPのメンバーに選ばれる。
91
年にCDデビュー。
『未成年』『透明人間』『ドク』『人にやさしく』などのテレビドラマに出演し、
2004
年には『新選組!』で大河ドラマ初主演を果たす。『新選組!』の初回視聴率は26%、年間の平均視聴率は17%。同年、初主演映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』も公開。
2016
1231日にSMAPが解散し、ソロタレントとなり、翌年99日、ジャニーズ事務所を退所。20171016日に稲垣吾郎、草彅剛とともにファンサイト「新しい地図」開設。
現在は画家や歌手などマルチな活動を見せる。

画像出典:公式サイトから

 

西田尚美:昆野亜弓
恒松祐里:昆野美波
吉澤健:昆野勝美
音尾琢真:村上竜次
リリー・フランキー:小野寺修司

 

■見どころ

香取慎吾の俳優としての魅力

 何よりもまず香取慎吾の圧倒的なスター性に魅了されました。香取演じる郁男は定職にもつかず、何年も同棲している彼女とは、自信がないためなかなか籍も入れられない意気地なしで、しまいには彼女のへそくりにまで手を出してギャンブルをしてしまうような、はっきり言ってダメな男なのですが、この共感性ゼロの中年男にも、香取慎吾が演じているから見ていられるというか、やっぱり“ずっと見ていたい”と思わせる華があります。
これがスターなのかと唸らされます。

今までの映画では両津勘吉や孫悟空などのポップなキャラクター物や、三谷幸喜作品などのコミカルな役を演じてばかりだったので、今回の役が香取慎吾の“新境地”と言われていますが、本人的には戸惑いも無く、自然に演じる事ができたとのこと。

というのも、本作においては全編ノーメイク(もちろん血は偽物)で撮影しており、かえってそれは40代の香取慎吾の等身大の姿に近いわけです。

「この郁男の姿って、僕がいつも見てる僕なんですよね」
(香取慎吾インタビュー)

引用元:cinemacafenet

いつも基本的にメイクをしてメディアに出ているわけですから、普段のテレビで見る姿のほうがむしろ等身大の香取慎吾からはかけ離れているのでしょう。

また内面に関しても自身と相似する部分があるとのこと、

「あまりいままでは見せることができなかったけど、僕の中にも“逃げる”部分とか苦悩、つらい部分はあります。生きていると誰にでもあると思うんです。そこが人一倍多い役でしたけど、そこで感じる部分はいっぱいつながっているなというのはありました。
(香取慎吾インタビュー)

引用元:cinemacafenet

自分の内面から郁男に通じる部分を引き出して演じたとのことですが、これって普通に凄い役者さんですよね。正直印象が変わりました。

香取慎吾の演技は?

実際に白石監督も役者としての香取慎吾を絶賛しており、現場のノリでシーンやセリフが加えられていっても、それに圧倒的なクオリティで応えてくる演技力に“衝撃”を受けたとのこと。

「僕はもともと、現場でせりふを足したり、台本にないシーンとシーンの間を撮ったりするのが好きなタイプ。俳優さんによっては、そういうことが苦手な方もいらっしゃいますが、香取さんは説明すると『分かりました』と言って、全部OKなんです。だから、どんどんそういうお願いが増えていきました。それであのクオリティーの芝居を見せてくれる。演じるとは何か、役者とは一体何かと、根源的な問題について、改めて考えさせられるほどでした。」
(白石監督インタビュー)

引用元:エンタメOVO

また白石監督は「日本のトップアイドルであり、トップの役者」という風に語っていますが、考えてみたらそれは当然なのかもしれません。

香取慎吾は普通の俳優さんとは圧倒的に“場数”や“経験”が違いますよね。あらゆる業界の一流と仕事をする中で、普通の人では考えられないぐらい多くのものを求められ、今まで全てそれに応えてきたのだから、彼が超一流の役者であるのは当然といえば当然。求められる物に100%応えられるから彼はスターなんですよね。

また改めて彼が所属していたSMAPが如何に凄いグループであったかに気付かされます。
本作は香取慎吾により1段も2段も上の作品になっていることは間違いありませんでしょう。

個人的にこの演技で何も賞を受賞しないのはおかしいと思います。


画像出典:公式サイトから

 

石巻が舞台であること

 本作は一人の男の“喪失と再生”がテーマとなっている作品ではありますが、舞台が石巻ということで、やはり東日本大震災を想起せずにはいられません。

白石監督は支援活動を続けてきた香取慎吾が主演に決まったことで、震災に向き合う決心ができたとのこと。

「僕も多少の寄付やボランティアなどは経験しましたが、やっぱり香取さんが過去に震災支援活動で見せてくれた風景は大きくて。現地の人について、知ることも多かったんです。香取さんに主演をやっていただけるなら、このタイミングで僕も震災に向き合える。そういった覚悟を、後押ししてくれました」。
(白石監督インタビュー)

引用元:MovieWalker

なぜ石巻が舞台?

劇中まだ復興していない部分や、作っている途中の防潮堤など、震災後の現在の石巻の姿が描かれていますが、印象的なのが「津波は新しい海を作った」というセリフです。これは「海自体が新しい海として生まれ変わって震災前よりも海に力が戻っている」という地元の漁師さんの言葉にインスパイアされ、加えられたセリフとのこと。
本作では一人の男の“喪失と再生”を通し、被災地再生への希望が描かれています

また被災という出来事を風化させたくなかったとのことですが、毎年ホロコーストや第1・2次世界大戦関連の映画が毎年作られるように、震災関連の映画も作られ続けなければならないと思います。

『凪待ち』に込められた意味は?

過去の悲劇や現状を描く事が、映画(物語)のドキュメントとしての意義なのではないでしょうか。実際に格差問題を扱った『パラサイト-半地下の家族-』が世界的に注目されたことで、韓国政府が半地下住民の一部に補助金を支給したように、映画(物語)には現実や人々を変える力があると思います。被災地の現状を映したという意味でも非常に価値のある作品ではないでしょうか。

タイトルの『凪待ち』ですが、このタイトルには「被災地に凪(平穏)が訪れてほしい」という願いが込められているそうです。

参照記事:Cinemarche

画像出典:公式サイトから

 

■感想・評価

 ヤクザ社会、警察の汚職など様々な日本社会の闇を描いてきた白石和彌監督が今回描くのはギャンブル依存症の闇(『麻雀放浪記2020』も同様)です。

日本に於いてほぼ全てのギャンブルは国が運営しているのにも関わらず、ギャンブル依存症は全く問題にされないという事が現実としてあるわけですが、これを真っ向から描くあたり、やはり白石監督作品にはある種の気概を感じますね。

それにしてもギャンブルにはまり全てを失っていく郁男の姿がなんとも痛々しく、映画を見ながら『もうやめて!』と口に出してしまう程リアルでした。実際にこういう人いますよね。個人的には郁男は良い反面教師になり、ギャンブルなんかしないで真面目にコツコツ働こうと思わされました。

郁男がギャンブルにはまってしまう原因とは?

でもなんで自分がギャンブルもしないのに、こんなにも郁男に感情移入してしまうかとそれは郁男と同じような“心の弱さ”を持っているからなんですよね。痩せたいと思いながらついつい甘い物を食べてしまったり、帰って仕事や勉強をするはずがついつい飲みの誘いを断れなかったり、状況に流され、誘惑に負けてしまうという意味では、誰でも郁男と同じ弱さを抱えているのではないでしょうか。

そういった意味でなんとも身につまされる映画だったなという印象です。この“心の弱さ”を克服するために郁男が取るある行動に胸が締め付けられました。

見ている間は暴力のシーンや胃がヒリヒリするようなシーンが多いのですが、見終わった後は優しい気持ちになりました。

殺された理由は・犯人の動機は?

本作の予告を見ると『誰が殺した?事件の真相は?』という切り口で宣伝をしているようですが、本作は犯罪サスペンスではなく、やはり喪失と再生がメインに描かれた人間ドラマですね。その証拠に本作では回想シーンはなく、犯人の動機は描かれません。

ほのめかしは少しありますが、そもそも本作は見る人の想像に委ねる作りになっているので「結局なんで殺したの?」と不満に思うのはちょっと違うのかなと思います。

ちなみに僕は「手に入らないならいっそ殺してしまおう」という強い愛が殺人の動機だと思いました。

また回想を描かないことによって、本当にギャンブル依存症の現実や被災地の現状を目撃してしまったような効果が得られていると思います。白石監督はあくまで“今”を切り取る事にこだわっているのですね。

 

■裏話・トリビア

 

  • リリーフランキーと香取慎吾は今回が映画初共演だが、20年以上前からラジオの構成作家と出演者という間柄で仲が良かった。
  • 香取慎吾は台本を読み込まない状態で現場に入り、直感で演じることを大事にしている。本作でも同様の方法が取られた。
  • メディアに露出する際、基本的にメイクをする香取だが、本作ではほぼノーメイクで演じた。
  • 白石監督は男性の俳優には劇中メイクをさせないという主義がある。
  • 長年震災をテーマに扱った作品を撮りたいと思っていた白石監督だが、支援活動をずっと続けてきた香取が出演する事が後押しとなり、震災に向き合う事ができた。
  • 本作では作りかけの防潮堤や未整地の部分など、今の石巻の姿が映されている。
  • 劇中の「津波は新しい海を作った」というセリフは、地元の漁師さんから聞いた「海自体が新しい海として生まれ変わって震災前よりも海に力が戻っている」という話が元になっている。
  • 本作では回想のシーンがないが、これは説明するより、「見る人の想像力に委ねたい」という意図がある。

 

参照記事

cinemacafenet
エンタメOVO
MovieWalker
Cinemarche

 

■その他のレビュー

 

 

 

 

■こんな人におすすめ

・香取慎吾の色気が見たい人

・喪失と再生の話が見たい人

・濃厚な人間ドラマが見たい人

 

■背景・作品概要

「孤狼の血」の白石和彌監督が、香取慎吾を主演に迎えて描くヒューマンサスペンス。「クライマーズ・ハイ」の加藤正人が脚本を手がけ、人生につまずき落ちぶれた男の喪失と再生を描く。

本作の撮影開始は618日(月)でクランクアップは717日(火)。
25日間に渡って行われた。

日本公開は2019628
配給:キノフィルムズ

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