【あらすじ・感想・評価】映画『蜜蜂と遠雷』世界に轟く想いの連鎖


公開日:2019年10月4日

<スタッフ>

監督・脚本:石川慶
原作:恩田陸
「春と修羅」作曲:藤倉大
撮影監督:ピオトル・ニエミイスキ
編集:太田義則

<キャスト>

栄伝亜夜:松岡茉優
高島明石:松坂桃李
マサル・カルロス・レヴィ・アナトール:森崎ウィン
風間塵:鈴鹿央士

<はじめに>

みなさんいかがお過ごしですか?

気温が上がってきてマスクが息苦しい季節になってきましたが、水分補給と映画補給をして乗り切りましょう!

今回紹介するのは『蜜蜂と遠雷』という2019年に大変話題になった映画です。本作はピアノコンテストにそれぞれの想いを抱え臨む、4人のピアニストの葛藤と成長を描いた作品です。

本作を観て意外だなと思ったのが、コンテストでの4人の熾烈な戦いが描かれているわけではなく、あくまでそれぞれのキャラクターが戦っているのは自分自身となんですよね。

よって、そういった内面の葛藤が多く描かれるので、ピアノが弾けない人やクラシックに造詣がない人でも共感できる部分が多い作りとなっています。

それではあらすじや見どころを感想を交え紹介いたします!

<あらすじ・感想・評価>

【芳ヶ江国際ピアノコンクール】

まず、場面は3年に一度開催される芳ヶ江国際ピアノコンクールの会場から始まります。この大会は若手ピアニストの登竜門と言われており、若手のピアニストにとってプロとしてやって行く上で、この大会で優勝することは非常に重要なんですね。約100人近い参加者で1次予選審査から2次予選審査まで行い、審査で勝ち残った6名が本選に勝ち進むことができるというルールです。この大会は静岡県浜松市で開催される浜松国際ピアノコンクールがモデルとなっており、原作者の恩田陸は『蜜蜂と遠雷』を執筆するにあたり、2006年の第6回大会から参加者全員の演奏を聴いたそうです。

【7年振りに姿を見せたかつての天才少女】

1次予選審査が始まろうとする中、本作の主役の一人、栄伝亜夜(えいでん あや)が登場します。演じるのは松岡茉優さんですが、毎回出る映画によって同じ人とは思えないほど雰囲気が変わりますよね。本作では黒髪のおかっぱヘアーがよく似合う内気な女性を演じており、いつ壊れてもおかしくない繊細なバランスで成り立っている感じは『万引き家族』の妹役に近いなと思いました。

それで栄伝亜夜が会場を歩いていると、場内がざわつきます。
「本当にあの栄伝亜夜?」
「復帰するの?」
「もう20歳になったんだって。」
という声があちこちから聞こえてきます。

というのも栄伝亜夜は過去に天才少女と言われ、CDまで出すほど話題の将来を嘱望されたピアニストでしたが、7年前、演奏の途中で舞台んから逃げ去り、以来表舞台には姿を見せていなかったんですね。なぜ逃げ出してしまったかというと、母親の死がきっかけでした。母親はピアノの講師で、栄伝亜夜にピアノを教えたのも彼女でした。栄伝亜夜にとって母親と一緒にピアノを弾くことが1番の喜びであり、ピアノを弾く事の意味そのものでもありましたが、母親が亡くなった事でピアノを弾く意味を見失い、またピアノを弾くことは母親の喪失に向き合うということでもあるわけですから、逃げてしまったんですね。

でもあれから7年が経ち、20歳になったも栄伝亜夜は自分にとってピアノが何なのかという答えを求めて、コンテストに臨みます。

 

【幼なじみマサルとの再会】

無事1次審査を通過した栄伝亜夜は、同じく審査を通過したマサルと再会します。このマサルは名門ジュリアード音楽院在学の優勝大本命の超エリートなんですが、幼少時、栄伝亜夜と一緒にレッスンを受けていました。

19歳になった彼のピアノ演奏は、洗練され超絶技巧の完璧主義なのですが、かえってその完璧さが彼の個性を押しつぶしてしまうというジレンマを抱えてもいます。彼の悩みは演奏に個性が出せないところなんですね。彼を演じるのは『レディ・プレイヤー1』の「オレはガンダムで行く!」の名台詞で全てのおじさんの胸を熱くした森崎ウィン。彼の端正なルックスと品のある佇まいがこの役にマッチしてますね。

久々の再会を喜ぶ2人は2次審査に臨みます。

 

【2次審査「春と修羅」】

この2次審査がくせ者で、この審査用に書き下ろした「春と修羅」という課題曲をそれぞれが弾くというものなのですが、後半にカンデンツァ(即興演奏)のパートがあるんですね。これにより表現力に加え、作曲のセンスまで試されます。

ここの2次審査は本当に、数ある音楽映画の中でも類を見ない物凄いシーンでした。

この即興演奏でそれぞれのキャラクターの心情や内面のを音で表現してしまうんですね。こんなに音楽と物語が有機的に機能した映画は見たことがありません。本当に見事でした。

【生活者の音楽】

中でもここの演奏シーンの白眉は、松坂桃李扮する高島明石(たかしま あかし)の演奏です。
高島明石は妻と小さい息子を持つ楽器店勤務のサラリーマン。年齢制限ギリギリのため、これが最後と覚悟を決めコンクールに臨みました。彼には特別な才能はなく、幼少期から英才教育を受けてきたエリートでもないため、生活に根ざした音楽を志向しているんですね。彼はそれを「生活者の音楽」と呼びます。

つましい生活の中で、食器の触れる音、部屋に注ぐ優しい光、自転車に乗っている時の爽やかな風、そして子供と妻の笑い声、そう言った生活の音や風景にインスパイアされ、彼は課題曲の中でカンデンツァを奏でます。

ピアノのタッチは可愛い息子と愛する妻を優しく撫でるように優しく、リズムは単調ですがそれは家族の営みを慈しむように堅実で力強い。またピアノの和音はそれら全てを包み込むように温かく、旋律は生活の喜びに満ち溢れています。これはまさに「生活者の音楽」にふさわしい演奏でした。

正直このシーンは見ていて涙が止まらなかったですね。彼は音楽家として大成する素質を持ち合わせていないかもしれませんが、家族の生活を音楽に昇華できただけで彼は芸術家として成功しているように思えます。

いつ何度観ても必ず涙してしまう映画というのは誰でも持っていると思いますが、僕は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』の中の、野原ひろしの回想シーンに匹敵するぐらい泣けましたね。

 

【ピアノを弾く喜び】

それでこの演奏を翌日に2次予選を控えた栄伝亜夜も客席から聴くのですが、彼女もこの演奏にとても感銘を受けるんですね。それまでピアノは彼女にとって重くのしかかる業のようなものだったのですが、この演奏を聴いた後で、母親と一緒にピアノを弾いていた時の優しく楽しい感覚を思い出し、ピアノが弾きたくていてもたってもいられなくなります。あいにく練習部屋は全て埋まってしまっていましたが、会場から少し離れた場所にあるピアノ修理場のピアノを貸してもらえることになります。

【波紋を呼ぶ天才少年】

高島明石の演奏を再現しようと鍵盤に触れようとした瞬間、窓から彼女を呼ぶ少年がいます。
この少年は風間塵(かざま じん)といい、コンテストの参加者の一人です。

彼は正規のピアノ教育を受けていないですが、ピアノの神童として本大会で非常に注目を浴びているんですね。また伝説の音楽家ユウジ・フォン=ホフマンからの推薦状もあるため、審査委員達からも一目置かれています。ホフマンからの推薦状には
「彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『厄災』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。」という意味深なことが書かれていました。

なぜ、風間塵もピアノ修理場に来たかというと、彼も高島明石の演奏に大変感銘を受け無性にピアノが弾きたくなったからなんですね。

窓から射す月明かりに照らされながら、栄伝亜夜と風間塵は一つのピアノを一緒に弾くのですが、ここのシーンも音楽的に凄かったですね。

月明かりにインスピレーションを受けドビュッシーの「月の光」、H・アーレンの「IT’S ONLY A PAPER MOON」、ベートーヴェンの「月光」と月にまつわる曲をまるで音楽で会話をしているように二人は奏でます。

栄伝亜夜は風間塵との出会いによってさらに音楽的に自由な表現を獲得します。

ここまでで各種主要キャラが出揃いましたが、果たして本選に勝ち進み優勝の栄冠は誰の手に…

<まとめ>

本作は勝ち抜きのコンテストで戦うピアニストを描いた作品ではありますが、悪役は一人もでてこないんですね。勝ち負けにこだわる話ではなく、あくまで音楽を通して人から人へ伝播していく想いの連鎖を丹念に描いています。誰かの演奏により、ある人はより自由な表現を見つけ、ある人は自分と音楽の関わりに気付く。

 

【タイトルの意味は?】

本作の「蜜蜂と遠雷」というタイトルの意味は、はじめは小さな響きしか持ち得なかった音が、連鎖していくことによってやがては世界を轟かすほどの大きな響きになるという事で、そしてこの力こそが神から我々に与えられたギフトなのだと思いました。

【本作のメッセージは?】

この良い連鎖を生むためにはやはり、心を開く事が大事なのだと思います。そして大勢がこの連鎖の中に身を置く事ができれば、この世に敗者など一人も存在しなくなるのだと思います。ここに身を置くことで、誰もが勝者の一部になることができるんですね。

これが調和であり、言い方を変えると平和なのではないでしょうか。
本作を見て「世界に心を開け」というメッセージを受け取りました。

そして本作はこうしたメッセージをセリフではなく全て音楽で表現しているのだから本当にすごいですね。
言語を超えて、世界中に伝播していく力を持った傑作だと思いました。

ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
コロナの閉塞感、経済危機、人種差別など様々な暗いニュースが飛び交う昨今に置いて、とても勇気を貰える作品でしたので、是非見てみてください。

画像出典:公式サイトから

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