【あらすじ・感想・評価】『ナイト・オン・ザ・プラネット』名作


日本公開1992年4月25日

 

<スタッフ>

監督・脚本・制作:ジム・ジャームッシュ
音楽:トム・ウェイツ
撮影監督:フレデリック・エルムス
編集:ジェイ・ラビノウィッツ

 

<はじめに>

みなさん、いかがお過ごしですか?

相変わらず、外出が憚れる状況が続きますが、そんな鬱屈とした気分を晴らしてくれる映画を紹介します。

その名も『ナイト・オン・ザ・プラネット』というジム・ジャームッシュ監督の92年公開の作品です。
本作はタクシーの車内で行われるドライバーと客との会話劇となっており、舞台はロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの世界5都市に渡って描かれます。都市ごとに章が分かれるいわゆるオムニバス映画ですね。

各話毎に違った街をタクシーで走り、車内から色々な街並みが観れて、とても贅沢な観光気分が味わえると共に、タクシードライバーと乗客のユーモラスな会話劇に魅了されます

では各章のあらすじと見どころを紹介したいと思います。
各章毎にオリジナルのタイトルも考えましたのでそちらもお楽しみください!

 

<あらすじ・感想>

■ ロサンジェルス

ガサツなタクシー運転手はハリウッドスターの原石!?

【キャスト】

コーキー :ウィノナ・ライダー
ヴィクトリア・スネリング : ジーナ・ローランズ

【あらすじ】

ロサンジェルス、PM7時。
ヴィクトリアは空港からビバリーヒルズの自宅に帰るため、たまたまそこに居合わせていたタクシーに乗る。
彼女は映画のキャスティング・ディレクターの仕事をしており、今回のフライトも仕事に関係するものだった。
タクシードライバーの名前はコーキーといい、まだ20歳前後の若くてチャーミングな女性。だが、コーキーは終始ガムを噛み、タバコを吸っては口汚い言葉を吐いてばかり。
初めはこんな娘の車で大丈夫かなと心配になるヴィクトリアだったが、コーキーの大胆さとチャーミングさに魅了されるようになる。ちょうど今映画のキャスティングで探していた「肝が据わってる女性」にコーキーはピッタリな気がする。果たしてヴィクトリアは彼女をスカウトできるのか…

【感想】

この章でやっぱり目につくのはウィノナ・ライダーの圧倒的な魅力ですね。この時期ですと『シザーハンズ』のおっとりしたお姫様のような役もやっていますが、本作では男勝りでガサツな女性という役柄を見事に体現していますね。「女性は家庭に入るもの」という世間一般の価値観や「女の子はみんなハリウッド女優になりたがるもの」という価値観に染まることなく、“自分らしい生き方”を優先する姿にとても共感しました
またそんな彼女を非難することなく、「そういう考えもあるのね」と優しく肯定するようなジーナ・ローランズの演技も良いですね。『こわれゆく女』や『グロリア』などで常にその時代ごとに、女性が置かれた理不尽な状況を体現して来た彼女だからできる優しい演技ですね。

人それぞれなりたいものも違うし、生き方も違う。そこに世間一般の幸せを当てはめて考えてはいけないということですね。

 

■ ニューヨーク

運転が下手なタクシードライバーと親切な乗客

【キャスト】

ヘルムート・グロッケンバーガー : アーミン・ミューラー=スタール
ヨーヨー :ジャンカルロ・エスポジート
アンジェラ :ロージー・ペレス

 

【あらすじ】

ニューヨーク、PM10時。
黒人の青年ヨーヨーは寒空の下、タクシーを拾おうとするが一台も止まる気配はない。
ようやく一台止まり乗り込むと、ドライバーの男は英語がほとんど話せず、加えて運転が物凄く下手だった。
タクシーを下車しようとするヨーヨーだったが、「生活がかかっている頼むから降りないでくれ!」と懇願され、自分が運転するということを条件にタクシーに乗ることになる。
ドライバーはヘルムートという名前で東ドイツから来たばかりだった。東ドイツにいた頃に道化をやっていたと話し、ヘルムートはヨーヨーに芸を披露する。次第に打ち解け合う二人。するとヨーヨーは歩道にアンジェラという義理の妹を発見する。遊び歩く彼女を家に連れ帰りたいヨーヨーは彼女に口汚く罵られながらもタクシーに彼女を乗せる。3人の奇妙なドライブが始まるのだった…

【感想】

正直この章が一番好きです。ヨーヨーとヘルムートがバディー化して行くまでがとてもコミカルで、そしてなんとも温かい。ヨーヨーは、車の運転や英語もままならないヘルムートに優しく接し、また運転を教えたり何かと世話を焼きます。なぜこんなことをするかというと、ヘルムートはドレスデンからの移民であり、ドレスデンといえば戦時中大規模な爆撃を受けたり、戦後も共産圏に支配されたりと何かと苦労の多い場所ですね。そんな非常に弱い立場に置かれたヘルムートを同じく黒人として弱い立場にあるヨーヨーは親切にしてあげるんですね。この「助け合いの精神」がなんとも心地よく感動的なんです。

助け合いの精神は国境を超え、どんな場所にでもどんな人種間にでも存在するんですよね。
本当に温かい気持ちになりました。

 

■パリ

物事の本質に目を閉ざすと痛い目に遭う

【キャスト】

運転手 : イザック・ド・バンコレ
盲目の女性 : ベアトリス・ダル

 

【あらすじ】

パリ、AM4時。
その日、アフリカ・コートジボワール移民のタクシー運転手は乗客に差別的な扱いを受けて苛立っていた。
今度こそは面倒の無い客だろうと、盲目の若い女性を乗せる。目的地にロワーズ河岸を指定した彼女は道順にうるさい。ドライバーは目が見えないのだからどうでも良いだろうと思うが、彼女は道や場所を感じることができるという。「あんたより、多くのことを感じることができるわ!」と彼女は言う。ならばとドライバーは「自分がどこの出身か分かるか?」と質問をすると、言葉のアクセントから見事言い当てられてしまう。「肌の色なんて関係ない」という彼女。感覚が鋭い彼女はドライバーが目で見るよりも、物事の本質を見ているのだった…

 

【感想】

コートジボワール移民のタクシー運転手は自分の外見や出身地のことで差別を受けることを恐れるあまり、世界に対して心を閉ざし、周囲に対し高圧的になっています。そんな彼のタクシーに乗り込むのは盲目の女性ですが、これは映画ファンならギョッとするわけですよ。なぜかといえば『ベティ・ブルー』でヒステリックな演技を見せたベアトリス・ダルが乗り込んでくるわけですから。何をしでかすかわかりません。ですが本作では家に火をつけたり、ナイフで目をえぐったりすることはないのでご安心を。彼女は運転手とは違い世界に対し心を開いた人物なんですね。なので目は見えませんが、運転手以上に物事の本質を見ることができます

自分の置かれた立場や境遇を受け入れることが心を開く一歩なのではないでしょうか。
そして自分の人生を幸せに生きれるかどうかは結局は自分次第

 

■ローマ

深夜のタクシーは地獄の懺悔室

【キャスト】

ジーノ :ロベルト・ベニーニ
神父 : パオロ・ボナチェリ

 

【あらすじ】

ローマ、AM4時。
市街を徘徊するタクシー。運転手はジーノと言い、無線相手に喚いたり歌ったり、あるいは一通の道を逆走したり、とにかくめちゃくちゃな男。そんな彼は広場で神父を乗せる。この神父は乗った時から具合が悪そうなのにも関わらず、無神経にも神父に向かって一方的に語り続けるジーノ。また神父は息苦しそうなのに、タバコを吸い出してしまう始末。さらに彼の無神経な言動はエスカレートし、車内を懺悔室に見立て、勝手に懺悔を始めてしまう。ジーノの下品でハレンチな話は神父の具合を益々悪くさせるのだった。果たして神父の運命は…

【感想】

この章が良い意味で一番くだらなかったです。
ロベルト・ベニーニの大仰でコミカルな演技は毎度のことながら、それを受ける神父の苦悶の表情がたまらなく可笑しかったです。それにしてもこの懺悔の内容のくだらなさといったら…笑

 

■ヘルシンキ

タクシーで聞かされた本当の悲しい話

【キャスト】

ミカ :マッティ・ペロンパー
乗客 :カリ・ヴァーナネン
乗客 :サカリ・クオスマネン
アキ :トミ・サルミラ

【あらすじ】

ヘルシンキ、AM5時。
朝方に眠たげな顔でタクシーを空走させるミカ。するとミカのタクシーに無線連絡が入る。指定された場所に行くと、3人の中年男性が互いに寄りかかり立ったまま寝ていた。見た所仕事終わりに朝まで飲んでいた様子。
3人はタクシーに乗り込むが、そのうちの一人は深く眠ったままだ。話を聞くと2人の男は、その寝たままの男のやけ酒に付き合っていたとのこと。男は仕事をクビになり、加えローンを払い終えたばかりの車も廃車になり不幸のどん底にあるという。運転手のミカは「そんなのは不幸の内に入らないという」。「じゃ、どんなのが不幸な話か聞かせて見ろ!」と乗客の男は言い、ミカは自分の身に起きた不幸な出来事を語り出すのだった…

【感想】

このミカを演じるマッティ・ペロンパーさんは、どこかで見たことがあるなと思っていましたがアキ・カウリスマキ作品常連の役者さんだったんですね。この話で見て思ったのは、人は悲惨な経験をした人に対して、共感し励まさずにはいられないということ。それは人間が持っている根源的なもので、もっとも美しいものに思えました。

この話で幕を閉じるというのが良いですね。

<まとめ>

5都市に渡って描かれるタクシーでの会話劇は「会話を通し、理解し合うことの素晴らしさ」に貫かれていました。
なんだか観終わった後で、誰かと無性に話したい気分になりましたね。

見ず知らずのどんな人でも、自分と共通する部分があり、逆に違いがあるからこそ、この世界は豊かになるのだと思わされました。大事なのはその違いを受け入れ、自分らしく生きることですね。

本作は単純に笑える映画が見たい方や温かい気持ちになりたい方におすすめです。

画像出典:IMDb

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